【決算・開示コラム】[有価証券報告書 虚偽記載に課徴金    (武田雄治)]

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COLUMN 決算・開示コラム

2005/05/01

有価証券報告書 虚偽記載に課徴金    (武田雄治)

有価証券報告書の虚偽記載事件が相次いだことから、虚偽記載した企業から課徴金を取る制度が導入される見通し。早ければ年内にも実現するらしい。

これまでは裁判で有罪にならない限り制裁はなかったが、今後は裁判に至らない場合でも、金融庁内に設置された「課徴金審判室」が額を算定し、課徴金が課せられることになる。

■課徴金制度導入に係る証券取引法改正案の全容は次の通り。

○課徴金の額は、次の通り

  虚偽記載を行ったときの株式時価総額×0.003%
  (ただし、最低額は300万円)

 1,000億円×0.003%=300万円であるから、株式時価総額が1,000億円以下の会社が虚偽記載を行った場合は300 万円の課徴金が課せられることとなる。

○課徴金と伏せて刑事罰が科せられた場合は、課徴金の額から罰金を差し引いた額を科す。
 よって、課徴金よりも罰金の額の方が大きければ、課徴金は課さない。

○違反行為が初めての企業や当局が調査する前に自主的に有価証券報告書を訂正した場合などは、法律施工後1年間は課徴金を減額する。この場合、課徴金の額は、次の通り。

 虚偽記載を行ったときの株式時価総額×0.002%
  (ただし、最低額は200万円)

○虚偽記載が1年以上続いた場合は3年を上限に年数分の課徴金をとる。

○施工から2年後をめどに制度のあり方や算定方法などを再検討する。

■課徴金とは、
財政法上の用語で、国が行政権・司法権に基づいて国民から賦課徴収する金銭のうち、租税を除くもの。行政権による手数料・使用料など、司法権による罰金・科料・裁判費用など。(Livedoor辞書より)

■背景
従来、刑事訴追は悪質さの度合いが高い場合に限るのが原則であるため、有価証券報告書に虚偽記載を続けても現実には何の処分も受けない場合があるのが現実であった。
しかし、最近相次ぐ有価証券報告書の虚偽記載に対して何の処分も受けないのでは、投資家が不測の損害を被る一方であり、投資者保護や証券市場の発展の観点から極めて問題があるといえる。
そこで、虚偽記載をした会社に対して制裁を加えようとしたのが、この課徴金制度である。

ただ、刑事罰と課徴金制度を併合させることは憲法が禁じる二重処罰に当たる可能性がある。
そこで、二重処罰を避けるために、課徴金制度は「不当に得た利益を取り上げる」という不当利得の考え方を採ることにしたのだ。
ここで「不当利得って何だ?」「不当利得はどうやって計算するのだ?」という議論になり、つまり虚偽記載を続けた企業が、それによってどれだけの利得を得たかなど計算できないではないか、という議論になり、一旦はこの制度案は幻として消滅したのだ。

しかし、算定が難しいからといって虚偽記載の横行を許してもよいとはならない。
米国では、不正な情報開示などについて課徴金に一応の上限を決め、SEC(証券取引委員会)が悪質さの度合いなどを勘案して課徴金を算定している。
英国では、FSA(金融サービス機構)が違反の重大性をもとに課徴金金額を決めている。
フランス、ドイツ、韓国でも株式などの発行後の継続的な情報開示義務違反に対する課徴金制度がある。
そのため、わが国でも課徴金制度導入が実現することになったのだ。

個人的な見解として、時価総額1,000億円の企業にたった300万円の課徴金を課すことが制裁になるのだろうか、と思っている。ただ、課徴金制度の趣旨は、あくまで投資者の保護と証券市場の発展である
ため、虚偽記載発覚により傷ついた株主を、さらに傷つけることをしてはならない(実は、株主が2回傷つくという問題も、課徴金制度が一旦幻として消滅した理由の1つだ)。
大切なことは、あくまでも経営者の自覚である。

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公認会計士 武田 雄治

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