【決算・開示コラム】[のれん償却(営業権償却)の会計処理の論点整理    (武田雄治)]

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COLUMN 決算・開示コラム

2005/05/07

のれん償却(営業権償却)の会計処理の論点整理    (武田雄治)

なお、意見に関する箇所は私見であり、一般的な見解とは異なることもありますのでご注意下さい。

のれん代の基礎知識、ポイント

のれん代とは、「超過収益力」のことをいい、貸借対照表(B/S)上は一般に「営業権」として表示されている。
のれん代には「有償取得のれん」と「自己創設のれん」があり、B/Sに計上できるのれんは「有償取得のれん」のみである。
「有償取得のれん」と「自己創設のれん」の違いは、要は対価を支払ったか否かの違いである。
例えば、マイクロソフト社にはビル・ゲイツというカリスマ経営者がいるから超過収益力を獲得できる、またはコカ・コーラ社やマクドナルド社は自社のブランド力があるから超過収益力が獲得できる、ともいえる。しかし、これらのブランド価値という貨幣価値で測定できないものをB/Sに計上することは現行の制度会計上は認められていない。
すなわち、「自己創設のれん」はB/Sに計上できないのである。

■現在、のれん償却の会計処理について、議論がなされている。

実務化の立場から、この議論のポイントとなっているものをまとめると、
(1)償却するのか、しないのか
(2)一括償却できるのか否か
(3)特別損失に計上できるのか否か、
の3点に絞ることができるだろう。
以下、それぞれについて説明する。

■償却するのか、しないのか

アメリカの会計基準もヨーロッパの会計基準(国際会計基準)も、のれん償却を禁止している。

理由は、
(1)償却期間に合理的な根拠がないから、
(2)のれん価値は減らないから、
(3)価値が下がれば減損処理をすればよいから
である。

一方で、日本基準(=新たに公表された企業結合会計基準)はのれんを20年以内の均等償却することを求めている(なお、現行基準上は、連結は20年以内償却、単体は5年以内償却することとされている)。

日本がのれんの規則償却を求めている理由は、会計の大原則である「費用収益対応の原則」に忠実に従っているだけだといえよう。
つまり、ある企業を買収し超過収益力が20年に渡って獲得できるのなら、買収コストの一部であるのれん代も20年に渡り償却し、超過収益力と買収コストを同一会計年度で対応させろ、という基本的な話である。固定資産が減価償却を行うのに、のれん(営業権)が償却を行わないことはおかしい、ということだ。

また、のれんの価値は減らないという諸外国の見解に対して、わが国は超過収益力が永続することはありえないという立場を採っている。収益力が維持しているのは、「自己創設のれん」が発生しているためであり、「有償取得のれん」は超過リターンの実現とともに減少するという考え方だ。

アメリカの償却が不要とする理由付けも合理的なような感じもするが、日本の主張の方がより合理的な気がするのは私だけだろうか。償却期間に合理的な根拠がないから償却しない、という理由付けが受け入れられるなら、わが国の法人税法上の固定資産耐用年数なんて、全く合理的根拠を見出せないではないか。また、「のれんの価値が減らない」と言い切るのは少し無理な主張のように思う。

■一括償却できるのか否か

日本基準は、のれんの均等償却を求めているが、減損処理(一括償却)も併用して認めている。
従来、新興企業でさかんに行われた企業買収した際ののれん代一括償却は認められなくなるが、のれんの価値がなくなったらその時に一括して償却してもよい、ということだ。

しかし、個人的に意味が分からない点がある。
基準では「企業結合日」に一括償却することは認めていないが、「企業結合した会計期間」に一括償却することは認めている。3月30日に企業結合した場合、3月30日に一括償却することがダメだが、3月31日の一括償却はOK、ということか? 恣意的に企業結合日を決算日前にずらす会社が出てくるような気がするが。

■特別損失に計上できるのか否か

基準では、のれんの規則償却費を「販売費及び一般管理費」に計上しなければならないとしている。
M&Aが活発な新興企業では、小さな会社にもかかわらず、何十億、何百億というのれんを計上することがある。この償却費を販売費及び一般管理費へ計上することを義務付けるということは、経常損益がいつまでも赤字ということを意味する。
一括償却の場合は「特別損失」への計上を認めているため、企業側はなんとか理由を付けて一括償却する方法へもってくることになるだろう。企業結合直後は規則償却したが、しばらくしたら一括償却ということを多くの企業が行えば、財務諸表に対する信頼性が失われることにならないだろうか。
それならば、むしろ企業結合時に一括償却した方が分かりやすく、信頼性が得られるのではないだろうか。

■総括

以上、論点を整理してみていくと、会計理論的にはわが国の主張である「規則償却必要説」が妥当であるように思える。
諸外国のように償却不要説を採用すれば、新興企業のB/Sはほとんどがのれん代となり、意味の分からないB/Sになってしまうのではないか。
かつて、1930年代にアメリカでM&Aブームが起きたときに、あまりにも水ぶくれしたB/Sを是正するために、資産をすべて再評価し、のれんの一括償却と資産再評価剰余金を相殺消去するという特例を認めたことがあったらしい。これによって、投資家から財務諸表に対する信頼性を失った。

では、そのようなことがあったにもかかわらず、なぜアメリカは償却不要説を採用しているのか。表向きな理由は、上記でも示した3つの理由、(1)償却期間に合理的な根拠がないから、(2)のれん価値は減らないから、(3)価値が下がれば減損処理をすればよいから、である。
しかし、本当は、FASB(アメリカ財務会計基準審議会)が、SAFS141号という新しい基準の草案で、のれん代が発生しない会計処理方法である「持分プーリング法」という企業結合に関する会計処理を廃止し、のれん代が発生する会計処理方法である「パーチェス法」という処理に一本化することを提案したところ、ハイテク業界・金融業界などの産業界からの猛反発があったらしい。
そこで、FASB妥協策として、「持分プーリング法」は禁止する代わりに、「のれん代は償却しなくてもよい」という、のれんの「非償却」兼のれんの「減損会計」を認めた、という背景がある。
このような産業界との妥協の背景があるため、日本の会計学者も、のれんの会計処理に関してはアメリカを追随するということはせず、自国の主張を通しているのである。

ただ、実務サイドからすれば、いくら会計理論的には正しくても、買収する都度、巨額の経常損益の赤字が数年間に渡って計上される可能性のある会計処理を受け入れることはできないだろう。特に、積極的なM&Aを展開する新興企業の経営者からは実際に反発が起こっているらしい。

確かに、日本の学者の見解、というか新しい企業結合会計基準の考え方は会計理論的には正しいと言える。しかし、会計が産業の発展の妨げとなってはならない。
なぜ、のれん償却費が「販売費及び一般管理費」なのか、なぜ一括償却がダメなのか、についてもっと学者サイドも合理的な説明をしなければ議論が平行線で終わってしまうように思う。
もう少し議論が必要なのではないだろうか。

なお、のれん償却の会計処理については、引き続きウォッチしていきたいと思います。
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2006年04月23日 のれん(償却)の会計処理

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公認会計士 武田 雄治

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