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2005/05/31
収益測定に関する会計基準 (武田雄治)
収益会計については、「いつ収益を計上するか」という認識の問題と、「いくらで計上するか」という測定の問題があります。 認識の問題については、現行会計上「実現主義」、すなわち財貨等を第3者に売り上げて、その対価を得た時点で、収益を計上する方法に異論はない思われます。 例えば、自社がA社から100円で仕入れたものを、B社に対して150円で売った場合で考えると、 現在の多様化するビジネスの世界において、どっちとも判断できるような取引が山ほどある中で、売上高至上主義が根強い我が国では(1)の方法を採用したくなる実務家の気持ちは十分理解できます。 電通の平成16年3月期の決算書をみると、日本基準では収益が約1兆7500億円計上されていますが、アメリカ基準では収益が約2900億円しか計上されていません。日本基準では(1)の方法で収益を測定し、厳格なアメリカ基準では(2)の方法で収益を測定しているためです。測定の方法が違うことで、売上高が6倍も(!)異なってしまうのです。 逆の事例を見てみましょう。 今までは、クオカードを販売した時に 「現金 100円 / 売上高 100円」 という仕訳を行い、クオカード購入者がセブンイレブンなど加盟店でクオカードを使用したら、そこから手数料を差し引いた分を加盟店に支払い、「売上原価 90円 / 現金 90円」 という仕訳を行っていました。つまり、(1)の総額主義により会計処理を行ってきました。 これを、クオカードを販売した時に 「現金 100円 / 預り金 100円」、加盟店支払時に、「預り金 90円 / 現金 90円」及び「預り金 10円 / 売上高 10円」という仕訳を行うように変更したのです。すなわち、手数料分のみを売上高に計上する、上記(2)の方法へ変更したのです。 クオカードのプレスリリースによると「営業活動の成果である収益のみを明示し、営業実態をより明瞭に表すことが可能となる処理方法に変更いたしました。」とあります。 これによりクオカードに売上高は500億円も減少し、従来計上していた売上高の殆どがなくなることになります。 アメリカの会計基準では、当事者の相手方が取引において第一義的な責任を負っている、または、相手方が代金回収のリスクを負っている場合など、自社が代理人(Agent)として取引を行っている場合は、純額主義を採用しなければならないと規定されています。電通の場合、広告代理店ですから、アメリカ基準では純額主義により収益を計上しなければなりません。 昨年あたりから、メディア・リンクスなどIT関連企業において売上高を水増しする事件がありませたが、これは、収益測定に関する会計基準が存在しなかったことも原因のひとつといえるかもしれません。 我が国の会計基準を作成する「企業会計基準委員会」や経済産業省が、まずIT関連企業を対象にした会計指針作りを、アメリカ基準を参考にしながら進めるそうです。今年の9月中間期からの適用を目指すとか。 かつて、株式を持ち合い、株主利益を重視していなかった時代は、大手総合商社がそうであったように売上高を増やすことがステータスとなっていました。今でも多くの会社が重要な経営指標として売上高を重視しています。 しかし、諸外国の財務諸表との比較可能性が問題とされている現行の日本基準において、解釈によって売上高が何倍にも変わるようなことがあってもいいのでしょうか。 |
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公認会計士 武田 雄治