【決算・開示コラム】[監査の限界    (武田雄治)]

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COLUMN 決算・開示コラム

2005/06/04

監査の限界    (武田雄治)

カネボウ、足利銀行、三谷産業、アソシエント・テクノロジー、・・・・・最近、中央青山監査法人が監査した会社の粉飾決算が目立っている。遡れば山一證券やヤオハンも中央青山が担当していた。

このような事件が相次ぐと、投資家は当然「中央青山は大丈夫か?」と不安に思うはずだ。メディアも黙っていない。足利銀行の粉飾発覚の際は、金融庁幹部も中央青山に対して憤ったとか。

先日、テレビ東京系の『ワールド・ビジネス・サテライト(WBS)』に中央青山監査法人の奥山章雄理事長が出演されていた。
そこで、カネボウの粉飾になぜ監査法人が気付かないのかとの質問に、奥山理事長はこのようなに答えている。
「警察のような調査をしないとわからない。監査の限界。だましてやろうとしたら、だまされることはこれからもあり得る。」

責任転嫁のようにも聞き取れる表現だが、つまりこういうことだ。

監査の目的は、あらゆる不正を発見することではない。
監査基準の前文には、「監査の目的は、経営者の作成した財務諸表に対して監査人が意見を表明すること」とあり、ここでいう(監査)意見の表明とは、「財務諸表が(中略)すべての重要な点において適正に表示しているかどうか」についての表明だと書かれている。
そして、監査基準委員会報告書によると「監査の実施は不正や誤謬に対する抑制効果となり得るが、すべての不正及び誤謬を防止又は発見する責任は、監査人が負うものではなく、また、監査意見は、不正及び誤謬が皆無であることを保証するものではない。」(同報告書10号11項)とも書かれている。

すなわち、監査は、投資家がミスリードしないよう「重要な点」において財務諸表が適正かどうかをチェックしているのであり、あらゆる不正を発見することを目的としていないということだ。監査は、時間的・経済的な制約がある中で実施されており、すべての重要な虚偽の表示を発見できないのである。奥山理事長のいう「監査の限界」とは、こういうことである。

ただし、不正発見のために監査法人が何の手続もしていないわけではない。経営者とディスカッションを行って、不正発見のための内部統制が構築されているかなどをヒアリングしているし、不正の兆候を見つけたり、不正を発見したりした場合には適切な対応をすることを監査人は求められている。

しかし、粉飾決算があるたび監査法人からは、「監査は不正発見を目的としていない」とか「監査には限界がある」という説明しかしない。不正発見のためにどういう手続をしたのか、その手続から不正が発見されなかったのはなぜか、について具体的な説明をしなければ、監査に対する社会的な信頼性を失うことになってしまう。

この度、監査法人が粉飾決算を見逃す事例が相次いでいることを問題視し、日本公認会計士協会(JICPA)は、会計監査において不正発見に重点をおいた手法を導入するという。
だが、いくら監査手法のルールを変えても粉飾をする会社が減るわけではない。監査の手法を厳格にするだけではなく、大切なのは実施した監査について監査法人がきちんと説明することではないだろうか。

今回の中央青山の奥山理事長のコメントは、監査法人のトップの発言にしては情けない。

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公認会計士 武田 雄治

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