【決算・開示コラム】[決算早期化と財務分析]

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COLUMN 決算・開示コラム

2012/10/15

決算早期化と財務分析

決算早期化は、気合や根性や人員補強で達成できるものではないと思います。もしそれで達成できたとしても、その効果が永続するとは思えません。決算早期化を達成するためには、経理・決算の「仕組み」を変えなければなりません。このあたりの話は、拙著「決算早期化の実務マニュアル」(中央経済社)第4章に詳述しておりますので、ご参照下さい。

拙著「決算早期化の実務マニュアル」には、「仕組み」を導入した上で、【財務分析】を徹底して行うことの重要性も述べております。

決算発表が遅い会社になればなるほど【財務分析】を十分に行なっていないという傾向があります。これまで【財務分析】を十分に行なってきていなかった会社の方から、財務分析はどうやって行うのか? どのような視点で行うのか? どのレベルまで行うのか? といった質問を多く頂きます。

本屋さんに行けば、「財務分析」に関する書籍が何冊か販売されており、色々な分析手法・指標が掲載されておりますが、決算担当者がやるべきことは、過年度の数値との「増減分析」です。「過年度の数値」とは、「前年同期」および「前四半期」の数値です。当期の数値と、前年同期(前四半期)の数値を比較して、増えたのか、減ったのかをチェックしてください。この増減理由を調べ、「言語化」「文書化」するのです。

変動分析は行っているものの、分析結果が経理部長の頭の中にあり、「言語化」「文書化」されていない会社が多いのですが、きちんとドキュメントすべきです。いちいちドキュメントすることは面倒なことかもしれませんが、記憶に頼るから決算が遅延するのです。監査法人からの質問も減らないのです。拙著「決算早期化の実務マニュアル」第5章には、変動分析シート(リードシートなど)の作成例を掲載していますので、こちらも参考にしてみてください。

財務諸表は複式簿記の原理により作成されているため、ある勘定科目の残高が前年同期と比較して5億円増減していたら、理論上、別の勘定科目の残高等が5億円増減しているはずです。つまり、原則として、すべての勘定科目の変動は言葉で説明できる(言語化できる)はずなのですもし、言語化できない変動があれば、そこには不正か誤謬があると疑って、さらに分析を掘り下げて下さい

【財務分析】を、試算表レベルで実施することで十分なのか、勘定科目レベルでも実施した方が良いのかという質問も多いのですが、勘定科目レベルでも実施すべきです。むしろ、勘定科目レベルで終わらずに、開示レベル(開示基礎資料レベル)でも実施すべきです。開示レベル(開示基礎資料レベル)の分析の必要性については、拙著「決算早期化の実務マニュアル」P174において、リース取引(オフバランス)のリードシート作成事例をもとに説明しておりますので、ご確認下さい。皆様の決算の最終成果物は有価証券報告書などの開示物ですので、開示レベルでの財務分析は絶対に必要です。

なお、【財務分析】を行うにあたり、金額的重要性を考慮することはもちろん大切です。余りにも金額的重要性が乏しい勘定科目の変動を一所懸命分析し、重要な勘定科目の分析が疎かになっては意味がありません。
ただし、ここで注意すべき点があります。【財務分析】を実施する項目、しない項目の判断基準として、例えば「期末残高3百万円以上のもの」とか、「前年同期比20%以上増減したもの」という具合に、社内で一定の定量基準を設けているケースを見受けられます。これは、個々人の分析能力に関わらず、基準以上のものについては財務分析を必ず行うわけですので、一定の分析効果が得られると思います。
しかしながら、一律に「○百万円以上」とか「○%以上」という基準を設けてしまうと、その基準以下のものについては分析を行う決算担当者の眼中に入らない可能性があると思います。拙著「決算早期化の実務マニュアル」P172において、

「財務分析を実施する担当者は、まず『森』を見て、そこから『木』や『幹』や『枝』へと掘り下げていくという大局的な視点を持つことが重要である」

と書きましたが、財務分析を行うにあたり重要なことは、まず財務諸表全体から勘定科目ごとの変動を鳥瞰的に見る視点です。「20%以上の変動がある項目のみ変動分析を行い、分析結果をリードシートに記載すること」というようなルールを決めてしまうと、全体の重要性などを考慮せずに、近視眼的な分析しかできないおそれがあります。

総資産100億円の会社において、得意先A社への売掛金残高は前期末2億円に対し今期末は2.2億円と10%増加したとしましょう。他方、得意先Z社への売掛金残高は前期末2万円に対し今期末20万円と10倍に増加したとしましょう。この場合、どちらの重要性が高いのかは言うまでもありません。A社です。しかしながら、「20%以上」というようなルールを設けている会社において、A社の変動分析結果として「10%しか増加していないため異常なし」としかドキュメントされておらず、逆に、重要性が極めて乏しいZ社の変動事由結果が細かくドキュメントされている、というようなことが起こり得るのです。このような事例をこれまで何社も見てきました。

また、一定の定量基準以下のものは重要性がない、とは言い切れないため注意が必要です。例えば、ある得意先への売掛金残高が過去数年間同額であればどうでしょうか。また、ある得意先への売掛金残高がマイナスであればどうでしょうか。いずれも、少額であったとしても、無視してはならないものです。

【財務分析】は、重要性を加味しながら徹底的に実施すべきでありますが、「森を見る」という視点を持つ癖は付けて欲しいと思います。

【財務分析】の精度があがれば、監査効率化、決算早期化の効果があらわれると確信しております。

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公認会計士 武田 雄治

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