【決算・開示コラム】[会計士に不正の通報を義務付け!]

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COLUMN 決算・開示コラム

2005/08/04

会計士に不正の通報を義務付け!

(メールマガジン『CFOのための最新情報』(2005/8/3号)より抜粋、一部加筆修正)

昨日の日経新聞1面トップに「会計士に通報義務」という記事が掲載されていた。

記事によると、
『金融庁は監査法人や公認会計士に対し、会計監査の過程で粉飾決算などにつながる不正を発見したり、不正の疑いを持った際に、証券取引等監視委員会などへの報告を義務付ける』
『悪質な場合は検察などへの通報を求める』

とある。2007年からの実現を目指すとある。

非常に厳しい要求である。 報告の基準が未だ明らかではないが、監査のプロセスにおいて「不正があるかも?」との疑いを持った際にも報告を求めるというのは、会計士の不正発見に関する責任はとても重くなる。 しかも、粉飾決算発覚後に報告を怠ったことが分かった監査法人や会計士は懲戒処分の対象になるという。
この「通報義務」以外にも、改正される予定の監査基準では「監査法人の内部審査の厳格化」 や 「後任の会計士への重要情報の引継ぎの義務化」 も規定される予定である。

◆監査法人の内部審査の厳格化
企業の破綻や粉飾の可能性など判断が難しい監査の意見を作成する際、監査法人は担当者一人の判断ではなく、必ず審査部門を通し統一見解を出す仕組みを作るようにする。 また、監査法人内で監査を巡る意見が割れた場合も、担当者間に調整を任せるのではなく、審査部門を通すように求める。
◆後任の会計士への重要情報の引継ぎの義務化
任期満了などで会計士が交代する際に、重要事項が必ず後任に伝達するように義務付ける。 現行では後任から求められた場合のみ伝えればよいとされていたのを変更する。

カネボウの粉飾決算など、公認会計士が会計不正を見逃す例が相次いでいることに対応し、監査も厳格にしていかなければならないのは仕方がないのだろう。
しかし、少し「不正発見」に対してナーバスになりすぎているのではないだろうか。
現行の監査基準によれば、あらゆる不正を発見することを監査の目的とはしていない。
現行の監査基準の前文には、「監査の目的は、経営者の作成した財務諸表に対して監査人が意見を表明すること」とあり、ここでいう(監査)意見の表明とは、「財務諸表が(中略)すべての重要な点において適正に表示しているかどうか」についての表明だと書かれている。 そして、監査基準委員会報告書によると「監査の実施は不正や誤謬に対する抑制効果となり得るが、すべての不正及び誤謬を防止又は発見する責任は、監査人が負うものではなく、また、監査意見は、不正及び誤謬が皆無であることを保証するものではない。」(同報告書10号11項)とも書かれている。
「不正及び誤謬によるすべての重要な虚偽の表示を発見できないことがあるという(監査の)限界」(同報告書10号14項)があるものの、不正を発見したり、不正の疑いを持った際に、通報義務を怠ると過失の場合であっても業務停止処分等を課せられることとなると、監査法人で働く会計士の責任の重さは従来の比でない。
カネボウの粉飾決算の手法は、赤字子会社の意図的な連結はずしや、買戻し条件付きの押し売り販売などであり、なぜ監査人である中央青山監査法人がこれら粉飾の手法に気が付かなかったのかと多くの方が疑問を抱いているはずだ。 この疑問に対して明確な解を追求しなければ、不正発見に重点をおいた監査基準を制定してもカネボウのような粉飾決算事件はなくならないだろう。暴走する車を減らすために、ドライバーを検挙せずに道路標識のみを立てかけても何の解決にもならないのと同じことだ。
私は監査法人に勤務する人間ではないので監査の世界のことは詳しく分からないのだが、従来からの監査の実証性手続が疎かになりはしまいか、有能な公認会計士が監査の世界から流出するのではないかと、最近の監査やSOXの報道を見ていると心配になってくる。

【参考記事】 —過去の記事より—
■公認会計士・監査法人への懲戒処分の内容 http://blog.livedoor.jp/ligaya_cfo/archives/22412182.html
■カネボウ粉飾決算の概要 http://blog.livedoor.jp/ligaya_cfo/archives/22410672.html
■日本版SOX導入 http://blog.livedoor.jp/ligaya_cfo/archives/22399411.html

(追加)
上記の記事について、けやき通り会計事務所さんのブログでは異なった視点から意見を述べられていました。

簡潔にまとめると、
従来、不正や不正の兆候を発見した場合、経営者や監査役等への報告義務だけ  ↓ 監査意見で不適正等を表明する監査法人を解任することもできる  ↓ 今後、監査人交代になるケースでは証券取引等監視委員会への何らかの報告が必要  ↓ 会計士の意見に従わざるを得ない  ↓ 監査の実効性、信頼性が高まる

なるほど、自社に都合の悪い監査意見を表明した監査人を解任して、別の監査人をさがして自社に都合の良い監査意見を表明してもらう、なんてことがあれば、監査の実効性や信頼性は失われてしまいますね。実際、そのような会社があったような気がします。 第三者からみて、財務諸表が適正なのかどうなのか判断できないような事があってはなりません。けやき通り会計事務所さんは「これでまた一歩、日本の開示制度、資本主義経済が進んだ気がします」と書かれていますが、確かにその通りですね。

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公認会計士 武田 雄治

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